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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)2号のホ 判決 1974年4月30日

原告(選定当事者) 黒川厚雄

被告 千葉県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

原告は「昭和四七年一二月一〇日行われた衆議院議員選挙の千葉県第一区における選挙を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二原告の主張

一  原告(選定当事者)の別紙目録記載の選定者らは、いずれも昭和四七年一二月一〇日行われた衆議院議員選挙の千葉県第一区における選挙(以下、本件選挙という)の選挙人である。

二  本件選挙は、次の理由によつて無効である。

(一)  日本国憲法(以下、単に憲法という)は、その前文冒頭において、日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動することをうたつている。いうまでもなく選挙、なかんずく国会議員選出のそれは、国民がその主張を行使する直接かつ具体的な機会のうち最も重要なものであり、議会政治のまさに生命をなすものである。国民各自が正当な選挙によつて代表者を選定すること、すなわち、公正な制度のもとで行われる選挙において何びとからの干渉をも受けることなく、自由にその代表者を選出することが確保されてはじめて、民主政治はその本来的機能を発揮しうべきものである。

そして、憲法は、その第一四条において一般に、法のもとで平等を規定するほか、とくに選挙については、第一五条第三項、第四四条において、いわゆる平等選挙を強く保障している。したがつて、選挙においては、いずれの選挙人の一票も他のそれと均等の価値を与えられていなければならないと解すべきところ、本件選挙にあつては、他の選挙区との間に「投票の価値」について明白かつ多大な格差が存し、その格差は、平等選挙において制度上当然に許容されるべき程度をはるかに超えるものである。

本件の衆議院議員選挙について選挙区別議員定数を定めた公職選挙法別表第一および同法附則第七ないし第九項の各規定はなんらの合理的根拠に基づくことなく、住所(選挙区)のいかんという関係において一部の国民を不平等に取扱つたものであつて、明らかに憲法第一四条の規定に達反するものであるから、右別表第一および前掲附則の各規定に基づいて行われた本件選挙は無効である。

(二)  国民の代表たる国会議員を人口に比例して選出すべきこと(議員定数人口比例の原則)は、近代民主政治の基本原理であつて、憲法第一四条第一項は、いわゆる民主主義的、個人主義的理念に照らし合理性を欠く差別を「法の適用」の面においてのみならず「法の定立」の面においても、さらに、同条項列挙以外の事由による場合においても、禁止する趣旨を宣明したものであり、右の意味において合理的と認めうる場合を除き、日本国民が平等の立場で選挙権を行使することの保障を害するような法の定立を立法府が恣意的に行うことは許されないものである。

選挙に関する平等は、選挙権の資格要件に関する「普通選挙」の獲得、投票の数の平等に関する「複数投票制」の克服のみでは達成されないものであつて、さらに各選挙人の「投票の価値の平等」が確立されないかぎり、けつして実現されえないものである。けだし、各選挙人に一票づつの投票権を与えながら、ある者の一票が他の者の数票に相当する価値を有する場合には、そのある者に数票、他の者に一票を与えたのと全く同一の事態を招来することになるからである。したがつて、議員定数を選挙人口(有権者数)に比例して各選挙区に配分すべきことの意味がそこに存するのである。

もちろん、「投票の価値の平等」といい、「議員定数人口比例の原則」といつても、制度として非合目的的、非実践的なものが要求される道理はなく、議員定数の配分にあたつて、これと選挙人口との整数比を得るために端数処理をするというような技術的な理由から議員定数と選挙人口との割合が選挙区間で若干不均衡になることや、立法後当該選挙までの間に各選挙区の選挙人口に変動が生じて不均衡を生ずることは、避け難いものといわなければならないが、選挙区の大小などの地理的要素、歴史的沿革、行政区画別議員数の振合い等の諸要素を考慮して各選挙区へ議員定数を配分することによつて生ずる不均衡は、憲法の許容する限界を超えるものであり、右のような諸要素はどのように「選挙区割」を定めるかにあたつては考慮が許されるとしても、「区割された各選挙区への議員定数の配分」にあたつて考慮されるべきことがらではない。

(三)  衆議院議員選挙において議員定数と選挙人口との割合について選挙区間に生ずる不均衡を憲法第一四条が許容する限度は、その不均衡が合理的理由に基づくものであることの立証が果された場合において、かつ、「一人に二人分以上のものを与えない」限度をもつて正当とされるべきであり、これを超える不均衡を生ぜしめる場合には、その一事をもつて当該選挙を無効と断じるに足りるものというべきところ、公職選挙法別表第一および同法附則の前掲各規定に基づいて行われた本件衆議院議員選挙においては、別紙対照表に明らかなように、議員定数と有権者数との割合が選挙区によつて不均衡であり、議員一人あたりの有権者数の最小値を示す兵庫県第五区の七九、一七二と本件千葉県第一区の三八一、二一七・二五との比は四・八一対一となつていて、その不均衡は、憲法上許容できる限界を超えるものといわざるをえない。(別紙対照表によれば、議員一人あたりの平均有権者数は一五〇、二四三・六六であるところ、その最大値三九四、九五〇と最小値七九、一七二との比は四・九九対一となつており、議員一人あたりの有権者数の平均値からの平均偏差は二九・一四パーセントである。また、議員総定数四九一の最少過半数二四六とこれを選出するに要した最少有権者数を別紙対照表の整理番号一の「兵庫五」から順に累積加算して得ることにすると、整理番号六三の「山口一」の議員定数四のうちの三までと同選挙区の有権者数五一九、四五九の四分の三に相当する三八三、五九四・二五までをもつてこれに達するが、そのようにして累積加算して得た最少有権者数は二七、〇一五、四一五・二五となり、これを有権者総数七三、七六九、六三六に対比すると三六・六二パーセントにすぎない。)

三  よつて、原告は、公職選挙法第二〇四条の規定に基づき、本件選挙を無効とする旨の判決を求めるために本訴に及ぶ。

第三被告の主張

一  本案前の主張

本件訴は、次の理由によつて却下されるべきである。

(一)  国家統治の基本に関する高度の政治問題が司法審査の対象とならないものであることは、すでに最高裁判所のいわゆる苦米地判決あるいは砂川判決において明らかにされているところである。議会主義を採用する我国憲法下においては、その議会の構成因子たる議員の定数、選挙区、選挙区別議員定数を含む選挙制度の基本問題は、国家統治機構に関する高度の政治問題であり、常に国民の真摯な関心事であつて、本件のごとき定数是正問題も、歴史的・社会的事情等を参酌して時代に適応するよう政治ないし立法の分野で解決されるべき性質のものというべく、司法権が自ら一定の基準を設定し、その是非を積極的に論ずべき筋合のものではない。本件のごとき訴を選挙権の侵害の有無という観点からとらえて、その是非を云々すべきではない。よつて、本件訴は、司法審査になじまないものとして却下されなければならない。

(二)  司法権は、その効果的な実行が制度上確認しえない事案については、自戒して、その判断を抑制しなければならない。本件訴訟はいわゆる民衆訴訟の一種であり、行政事件訴訟法第四二条により公職選挙法第二〇四条に基づく以外はその提起を許されないものであり、本件もまた公職選挙法同条に依拠して提起されたものであることは訴状に明らかなところである。ところで右法条に基づく訴訟の結果施行されなければならない再選挙は、その事由が生じた日から四〇日以内に行われなければならず(同法第三四条第一項)、しかも、公示後投票日までには少くとも二〇日の期間をおかなければならない(同法同条第六項)から、法改正のため残される期間はわずか二〇日間にすぎない。この期間内に国会を招集し、本件を含む無効とみなされる選挙区全部の改正を論議し、議決することは実際上不可能なことに属する。しかして一たん違憲に基づき選挙無効と判断された以上、法改正がないからといつて、これを放置することはできないから、四〇日以内に再選挙を行う以外に方法はなく、この選挙もまた無効とされるから、結局無効の選挙を繰返すことになり、収拾すべからざる混乱を招来することになろう。これでもなお司法権の効果的な実行が期待できるというのであろうか。

(三)  公職選挙法第二〇五条にいう「選挙の規定」とは、具体的選挙の管理執行手続規定を意味するものである。これを合理的範囲内で拡大解釈することまでは否定しないが、議員定数問題のごとき多分に政治的問題を含み、新たな立法措置を講じない限り、前述のようにその実効性がないような事案についてまで、これを拡大解釈して適用することは、法解釈の限界を逸脱するものというべく、本件のごとき訴は、一見明白に公職選挙法第二〇四条に該当しない訴として排斥を免れないものである。

二  本案についての主張

(一)  原告主張の一の事実は認める。

(二)  原告主張の各選挙区の議員定数、有権者数、議員一人あたりの有権者数およびその各選挙区間の偏差がその主張のとおりであることは認めるが、本件選挙を無効とする主張は争う。

(三)  元来、選挙に関する事項は原則として立法府の専権事項であり、各選挙区の議員定数について選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせるような場合にのみ、これに基づいて行われた選挙が無効とされるにすぎないものであることは、昭和三九年二月五日言渡の最高裁判所大法廷判決(昭和三八年(オ)第四二二号)によつて明らかなところであり、本件の衆議院議員選挙における議員定数と有権者数との割合の各選挙区別不均衡はいまだ選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせているものとはいえない。

なお、公職選挙法別表第一中に「本表は、この法律施行の日から五年ごとに、直近に行われた国勢調査の結果によつて、更正するのを例とする。」との規定があるが、これは訓示的規定であつて、立法の予定方針を明らかにしたにすぎず、国勢調査の結果による人口の変動に応じ選挙区ならびにその議員定数の変更を絶対的に義務づけた規定ではない。

第四証拠<省略>

理由

一  本訴の適否について

(一)  原告(選定当事者)の別紙目録記載の選定者らがいずれも本件選挙の選挙人であることは、当事者間に争いがなく、原告が右選挙の日から公職選挙法第二〇四条所定の三〇日以内である昭和四八年一月九日当裁判所に本訴を提起したことは、記録上明らかである。

(二)  被告は、本件訴は司法審査になじまないから却下されるべきであると主張するから、まず、この点について判断する。

選挙権、ことに国会議員選出のそれは憲法に基づく民主政治にとつて不可欠の国民の基本的権利であるといわなければならないところ、議員定数の配分は右選挙権の享有に影響するところの大きいことがらである。しかして、議員定数の配分は立法府である国会にゆだねられた事項ではあるが、国会が憲法の精神を無視しその裁量権を濫用して、著しく不合理、不平等な定数の配分を行い、それによつて選挙人相互間に選挙権の平等が害される場合の生ずることも考えられないことはない。したがつて、国民の基本的権利である選挙権がそのようにして侵害されたことを理由に選挙人が司法的救済を求めた場合に、議員定数の配分が国会の専権事項であるとの一事をもつて裁判所の審査権限がこれに及ばないとすることは許されないものといわなければならない。

また、議員定数の配分は国会の裁量的権限に属するものではあるが、前記のごとく国民の基本的権利である選挙権に関することがらであつて、国家統治の基本に直接関係する高度に政治性のある国家行為とは解されないから、右統治行為の理論をもつてこれが裁判所の審査権限外の事項であるということはできない。

次に、被告は、本件において選挙無効の判決がなされたとしても、その結果施行されなければならない再選挙が有効に行われるために議員定数の配分を改正することは、公職選挙法の規定上、これに要する期間が少くて実際上不可能であるとして、実効のない司法権の行使は抑制すべきであると主張する。しかし、公職選挙法の実体規定ともいうべき選挙権の実質に関する規定が憲法に違反するかどうかが司法審査の対象になるかどうかを判断するについて、その判断の結果に従うことが同法の現行の手続規定に照らし実際上不可能であるかどうかによつて決すべきであるという論理は、事の本末を顛倒するものであつて採用できない。

(三)  被告は、本件訴は公職選挙法第二〇四条に該当しないから却下されるべきであると主張する。

しかし、同法第二〇五条にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、具体的選挙の管理執行手続規定に違反することがある場合のみでなく、本件において主張されているように選挙に関する法令の規定が憲法に違反するためにその規定に従つて施行された選挙の効力が否定されなければならない場合をも含むものと解すべきであり、同法条にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」とは、当該選挙が選挙の規定に違反したことによつてその具体的な選挙の結果に影響があつたとみられる場合のことであつて、訴訟の結果に基づく再選挙の施行が実効をあげうるかどうかを同法第二〇四条による訴の要件と定めたものとは解されないから、被告の右主張は採用できない。

二  本案について

原告は、憲法が保障するいわゆる平等選挙は選挙区を異にする各選挙人についても「投票の価値の平等」が確保されなければ達せられないものであると主張し、ところが本件の衆議院議員選挙について選挙区別議員定数を定めた公職選挙法別表第一および同法附則第七ないし第九項の各規定はなんらの合理的根拠に基づくことなく、住所(選挙区)のいかんという関係で一部の国民を不平等に取扱い、明らかに憲法第一四条の規定に違反するものであるとし、右別表第一および前掲附則の各規定に基づいて行われた本件選挙にあつては、他の選挙区との間に「投票の価値」について明白かつ多大な格差が存し、その格差は平等選挙において制度上当然許容されるべき程度をはるかに超えるものであるから、本件選挙は無効である旨主張するので判断する。

本件選挙が右別表第一および前掲附則の各規定に基づいて行われたことは、公知の事実である。

原告は、右「投票の価値」は各選挙区における議員定数と有権者数との割合をもつて表わすことができると主張し、本件の衆議院議員選挙における選挙区別の議員定数と有権者数との関係が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

憲法は、衆議院議員の定数は法律で定める旨(同第四三条第二項)議員およびその選挙人の資格は法律で定め、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産または収入によつて差別してはならない旨(同第四四条)を規定し、かつ、選挙区、投票の方法その他議員の選挙に関する事項はこれを法律で定める旨(同第四七条)規定しているが、選挙区割および各選挙区において選挙すべき議員の数をどのように定めるべきかについては規定していないから、この点は憲法によつて立法府の裁量にまかせられているものと解すべきであつて、原告主張のように、選挙区の大小などの地理的要素、歴史的沿革、行政区画別議員数の振合い等の諸要素は考慮の外にして、もつぱら各選挙区ごとに議員定数と有権者数との比率を均衡にするよう立法すべきものとする憲法上の覊束があるとは解されない。

衆議院議員は選挙区を単位とする地域住民の代表としてではなく全国民の代表として選出されるべきものであることは、憲法第四三条第一項の規定上明らかであつて、その趣旨と憲法第一四条のいわゆる平等保障条項の趣旨に照らせば、議員定数の各選挙区別の配分についての立法にあたつては、選挙人口たる有権者数との比率が重視されて、これが各選挙区間で均衡を保つよう配慮されるべきであるといわなければならない。

しかし、人口の疎な面積の広い地区の地域特殊性を国会の審議に多く反映させることが国民全体の利益に合すると考えられる場合に、選挙人口との比率にかかわらず当該地区を包摂する選挙区の議員定数を人口の密な面積の狭い選挙区より多い割合で定めることの裁量がなされたとしても、それが合理的でないとはいえない場合がありうるのであつて、このような場合に選挙人口との比率の不均衡の一事をもつて、立法府の裁量行為が合理的範囲を逸脱するとはいえないものと解すべきである。

また、急激な人口変動のため特定の選挙区の選挙人口が議員定数との比率の均衡を破る程度にまで減少した場合にあつても、その減少状態の持続についての見通し、あるいはその選挙区に対する議員定数配分の沿革を考慮して、一挙に他の選挙区との比率均衡をはかることを留保する裁量もまた合理的範囲を逸脱しないものといえる場合がありうるのである。そして、このような立法府の裁量が選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせるような場合は格別、議員定数の配分が選挙人口に比例していないということだけで憲法第一四条第一項に違背するといえないことは、すでに昭和三九年二月五日言渡の最高裁判所大法廷判決(昭和三八年(オ)第四二二号)の明らかにするところである。

そしてまた、右にいう「選挙権の享有」とは、当該選挙区における選挙人の有する選挙権の総和を比例配分的に享有する関係のものでないことはいうまでもないところであつて、原告が平等を唱える「投票の価値」の実質についても同様のことがいえる。また、投票の価値が大きいといつても、当該選挙人にとつてみればその投票によつて最大限一人の候補者の当選をもたらすことができるだけであつて、価値の大きい投票をする選挙区の各選挙人は価値の小さい投票をする選挙区の各選挙人より多数の議員を選出しうるわけのものではない。いうところの「投票の価値」とは、選挙人の投票する権利の価値を選挙人の側から評価した概念であると解することができるところ、それは、ひつきよう、選挙人の投票が自己の選出しようとする候補者の当選をもたらす可能性の度合い(逆にいえば、いわゆる死票とならない可能性の度合い)であるということができる。したがつて、議員定数と有権者数以外の一切の要因を一定にして考えれば、議員一人あたりの有権者数の少い選挙区における各投票の価値は、それの多い選挙区の各投票の価値より大であるということができるわけである。

しかし、選挙区を異にする選挙人について投票の価値を比較するにあたつては、右のような単純な算術的比例数値のみによることはできないものであつて、さらに当該選挙制度の構造上当然考慮に入れなければならない他の諸要因が示す変数値との関数関係においてその投票の価値が求められるものといわなければならない。立候補者数との割合という要因だけをとつてみても、それは選挙区を異にして一定の数値を考えることはできない。その数値のいかんによつて、選挙区の選挙人の投票が自己の選出しようとする候補者の当選を可能とする度合いに影響を受けることは明らかというべきである。したがつて、原告の主張するように、ある選挙区の議員一人あたりの有権者数が他の選挙区に比べて二倍ないし数倍になつている事実をもつてただちに、後者の選挙人に前者の二人分ないし数人分の投票の権利が与えられたと同視できるとはいえないのである。

もちろん、右諸々の要因を考慮に入れてもなお、選挙区別の選挙人につきその投票の価値の平等を害するといわなければならないような議員定数の配分が考えられないことはないのであつて、その不平等が国民の正義公平観念に照らし容認できないものと認められる程度に至つた場合には、もはや憲法の保障する平等選挙の理念から許すべからざるものといわなければならず、それは前掲最高裁判所大法廷判決のいう選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせる場合にあたるものというべく、議員定数の配分がそのような事態を生ずる場合には、もはや立法府の合理的裁量の範囲を超え、憲法上許されないものといわなければならない。しかして、本件の衆議院議員選挙において選挙区別の議員一人あたりの有権者数が原告主張のような不均等であることは前示のごとくであつて、最高と最低ではそれぞれその平均から二・六倍強と二分の一弱程度の偏差を示していることは、当事者間に争いのない右事実から明らかであるが、本件にあらわれた事実関係のもとでは、いまだ、選挙区別議員定数の配分によつて生ずる投票の価値の不平等が国民の正義公平観念に照らし容認できない程度に至つているとは認められないから、右選挙につき議員定数の配分を定めた前掲別表第一および附則の各規定が違憲であるとする原告の主張は採用できないところであり、右違憲を前提として本件選挙の無効をいう原告の請求は失当というのほかない。

よつて、原告の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 久利馨 安倍正三 舘忠彦)

別紙

昭和47年12月10日執行の衆議院議選挙における議員定数有権者数対照表

整理番号

選挙区

議員定数

選挙当日の有権者数

議員一人当りの有権者数

議員一人当りの有権者数の平均値からの偏差

1

兵庫 五

3

237,516

79,172

71,071.65

-47.30%

2

鹿児島 三

3

245,010

81,670

68,573.66

-45.64

3

石川 二

3

253,610

84,536.67

65,706.99

-43.73

4

秋田 二

4

360,121

90,030.25

60,213.41

-40.08

5

愛媛 三

3

270,827

90,275.67

59,967.99

-30.91

6

新潟 二

4

368,100

92,025

58,218.66

-38.75

7

宮崎 二

3

279,678

93,226

57,017.66

-37.95

8

長野 三

4

381,386

95,346.5

54,897.16

-36.54

9

山形 二

4

382,191

95,547.75

54,695.91

-36.40

10

新潟 四

3

291,877

97,292.33

52,951.32

-35.24

11

宮城 二

4

391,295

97,823.75

52,419.91

-34.89

12

大分 二

3

295,915

98,638.33

51,605.32

-34.35

13

岩手 二

4

395,249

98,812.25

51,431.41

-34.23

14

福島 二

5

494,217

98,843.4

51,400.26

-34.21

15

三重 二

4

396,383

99,095.75

51,147.91

-34.04

16

和歌山 二

3

297,564

99,188

51,055.66

-33.98

17

栃木 二

5

501,058

100,211.6

50,032.06

-33.30

18

鳥取

4

401,928

100,482

49,761.66

-33.12

19

奄美群島

1

100,996

100,996

49,247.66

-32.78

20

千葉 二

4

406,410

101,602.5

48,641.16

-32.37

21

長野 二

3

304,888

101,629.33

48,614.32

-32.36

22

熊本 二

5

509,771

101,954.2

48,289.46

-32.14

23

鹿児島 二

3

307,362

102,454

47,789.66

-31.81

24

新潟 三

5

512,528

102,505.6

47,738.06

-31.77

25

香川 二

3

310,039

103,346.33

46,897.32

-31.21

26

長崎 二

4

413,470

103,367.5

46,876.16

-31.20

27

群馬 二

3

310,535

103,511.67

46,731.99

-31.10

28

山梨

5

527,421

105,484.2

44,759.46

-29.79

29

茨城 三

5

530,952

106,190.4

44,053.26

-29.32

30

千葉 三

5

538,108

107,621.6

42,622.06

-28.37

31

島根

5

542,452

108,490.4

41,753.26

-27.79

32

長野 四

3

328,815

109,605

40,638.66

-27.05

33

富山 二

3

332,154

110,718

39,525.66

-26.31

34

山口 二

5

558,838

111,767.6

38,476.06

-25.61

35

佐賀

5

562,826

112,565.2

37,678.46

-25.08

36

群馬 三

4

452,648

113,162

37,081.66

-24.68

37

徳島

5

566,519

113,303.8

36,939.86

-24.59

38

福島 一

4

453,890

113,472.5

36,771.16

-24.47

39

福島 三

3

345,233

115,077.67

35,165.99

-23.41

40

高知

5

583,527

116,705.4

33,538.26

-22.32

41

山形 一

4

468,469

117,117.25

33,126.41

-22.05

42

福岡 三

5

586,760

117,352

32,891.66

-21.89

43

香川 一

3

352,999

117,666.33

32,577.33

-21.68

44

埼玉 三

3

353,157

117,719

32,524.66

-21.65

45

岐阜 二

4

472,803

118,200.75

32,042.91

-21.33

46

沖繩

5

594,637

118,927.4

31,316.26

-20.84

47

愛媛 一

3

358,929

119,643

30,600.66

-20.37

48

長崎 一

5

598,280

119,656

30,587.66

-20.36

49

広島 二

4

479,062

119,765.5

30,478.16

-20.29

50

広島 三

5

601,449

120,289.8

29,953.86

-19.94

51

栃木 一

5

603,375

120,675

29,568.66

-19.68

52

青森 二

3

365,690

121,896.67

28,346.99

-18.87

53

岡山 一

5

613,186

122,637.2

27,606.46

-18.37

54

秋田 一

4

499,348

124,837

25,406.66

-16.91

55

愛媛 二

3

376,430

125,476.67

24,766.99

-16.48

56

長野 一

3

379,098

126,366

23,877.66

-15.89

57

岡山 二

5

633,904

126,780.8

23,462.86

-15.62

58

滋賀

5

638,920

127,784

22,459.66

-14.95

59

北海道 三

3

383,635

127,878.33

22,365.32

-14.89

60

鹿児島 一

4

512,908

128,227

22,016.66

-14.65

61

北海道 二

4

517,212

129,303

20,940.66

-13.94

62

大分 一

4

518,981

129,745.25

20,498.41

-13.64

63

山口 一

4

519,459

129,864.75

20,378.91

-13.56

64

福井

4

522,447

130,611.75

19,631.91

-13.07

65

群馬 一

3

391,846

130,615.33

19,628.32

-13.06

66

熊本 一

5

657,340

131,468

18,775.66

-12.50

67

茨城 二

3

397,646

132,548.67

17,694.99

-11.78

68

兵庫 四

4

535,899

133,974.75

16,268.91

-10.83

69

岩手 一

4

538,883

134,720.75

15,522.91

-10.33

70

富山 一

3

406,809

135,603

14,640.66

-9.74

71

福岡 二

5

680,349

136,069.8

14,173.86

-9.43

72

奈良

5

682,868

136,573.6

13,670.06

-9.10

73

東京 八

3

419,396

139,798.67

10,444.99

-6.95

74

三重 一

5

700,022

140,004.4

10,239.26

-6.82

75

愛知 五

3

425,553

141,851

8,392.66

-5.59

76

静岡 二

5

720,738

144,147.6

6,096.06

-4.06

77

京都 一

5

723,557

144,711.4

5,532,26

-3.68

78

北海道 五

5

725,402

145,080.4

5,163.26

-3.44

79

茨城 一

4

584,627

146,156,75

4,086.91

-2.72

80

宮崎 一

3

440,545

146,848.33

3,395.32

-2.26

81

福岡 四

4

589,650

147,412.5

2,831.16

-1.88

82

北海道 四

5

742,368

148,473.6

1,770.06

-1.18

83

静岡 三

4

596,072

149,018

1,225.66

-0.82

84

和歌山 一

3

449,607

149,869

374.66

-0.25

85

東京 六

4

602,639

150,659.75

416.09

+0.28

86

岐阜 一

5

754,374

150,874.8

631.14

+0.42

87

青森 一

4

604,787

151,196.75

953.09

+0.63

88

新潟 一

3

455,938

151,979.33

1,735.68

+1.16

89

石川 一

3

457,512

152,504

2,260.34

+1.50

90

愛知 四

4

651,855

162,963.75

12,720.09

+8.47

91

兵庫 三

3

495,019

165,006.33

14,762.68

+9.83

92

東京 二

5

828,643

165,728.6

15,484.94

+10.31

93

東京 一

3

508,071

169,357

19,113.34

+12.72

94

静岡 一

5

851,027

170,205.4

19,961.74

+13.29

95

東京 四

5

868,803

173,760.6

23,516.94

+15.65

96

宮城 一

5

874,400

174,880

24,636.34

+16.40

97

愛知 二

4

707,404

176,851

26,607.34

+17.71

98

大阪 二

5

920,217

184,043.4

33,799.74

+22.50

99

京都 二

5

939,434

187,886.8

37,643.14

+25.05

100

大阪 一

3

567,349

189,116.33

38,872.68

+25.87

101

愛知 三

3

574,977

191,659

41,415.34

+27.57

102

東京 三

4

775,084

193,771

43,527.34

+28.97

103

大阪 六

3

586,125

195,375

45,131.34

+30.04

104

福岡 一

5

980,540

196,108

45,864.34

+30.53

105

埼玉 四

3

589,229

196,406.67

46,166.01

+30.73

106

東京 五

3

617,662

205,887.33

55,643.68

+37.04

107

埼玉 二

3

620,754

206,918

56,674.34

+37.72

108

大阪 四

4

850,373

212,593.25

62,349.59

+41.50

109

東京 九

3

641,398

213,799.33

63,555.68

+42.30

110

兵庫 二

5

1,109,944

221,988.8

71,745.14

+47.75

111

大阪 五

4

889,510

222,377.5

72,133.84

+48.01

112

北海道 一

5

1,128,968

225,793.6

75,549.94

+50,28

113

広島 一

3

680,737

226,912.33

76,668.68

+51.03

114

愛知 六

3

690,510

230,170

79,926.34

+53.20

115

兵庫 一

4

923,804

230,951

80,707.34

+53.72

116

愛知 一

3

714,148

238,049.33

87,805.68

+58.44

117

神奈川 三

5

1,232,432

246,486.4

96,242.74

+64.06

118

東京 一〇

4

1,029,121

257,280.25

107,036.59

+71.24

119

神奈川 二

4

1,122,170

280,542.5

130,298.84

+86.73

120

埼玉 一

4

1,202,626

300,656.5

150,412.82

+100.11

121

神奈川 一

5

1,673,243

334,648.6

184,404.94

+122.74

122

東京 七

5

1,837,518

367,503.6

217,259.94

+144.61

123

千葉 一

4

1,524,869

381,217.25

230,973.59

+153.73

124

大阪 三

4

1,579,800

394,950

244,706.34

+162.87

総計

491

73,769,636

150,243.66

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